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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)22号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告の主張する審決の取消事由について判断する。

1 本願意匠が意匠に係る物品を「墓石用花立筒」とし、その形態が別紙第一のとおりであること、及び引用意匠が意匠に係る物品を本願意匠と同一のものとし、その形態が別紙第二のとおりであること、本願意匠と引用意匠とは、その基本的構成態様として、全体が口縁に鍔を有する有底のやや上広がりの円筒の底部に略伏皿状の台座を形成した点で一致し、具体的構成態様についても、鍔がかなり横に張り出した断面弧状のものであり、台座がやや深皿様の伏皿状でやや分厚く、円筒の際より外方に張り出した態様に形成されている点が共通していることは、当事者間に争いがない。

そして、別紙第一及び同第二によれば、本願意匠と引用意匠とは、具体的構成態様のうち、

(一) 開口部幅員と全体高さとの比率が、本願意匠では略二対三であるのに対し、引用意匠では略一対二であり、また、台座部幅員と全体高さとの比率は、本願意匠では略三対五・五であるのに対し、引用意匠では略一対二であり、開口部、台座部ともその幅員の全体高さに対する比率については、本願意匠が引用意匠に比べて大きくなつている点、

(二) 花立筒の開口部の形状につき、本願意匠は直線的なテーパ状であり、フランジ部での折り返しは極めて大きいのに対し、引用意匠は緩やかに拡開する湾曲したラツパ状であり、フランジ部の折り返しは小さい点、

(三) 本願意匠では墓石用花立の墓石台への定着手段として台座底部に下方に略凸状の埋設部を延設しているのに対し、引用意匠では定着手段の形状が明らかではない点、で相違すると認められる。

なお、原告は、本願意匠は花立筒、支持筒体及び台座の三部品からなつているのに対し、引用意匠は花立筒及び台座の二部品からなつているとして、両意匠に係る物品を構成する部品の違いに基づく美感の差異を主張する。

しかし、引用意匠については、墓石用花立を構成する部品が明らかでなく、仮に原告主張のとおりの構成であるとしても、意匠は「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう」(意匠法第二条)から取引者、需要者において通常物品を選択するに当たり、意匠の外観に現れず、視覚を通じて認識することがない物品の形状は、意匠の類否判断を左右する要素となり得ないものというべきところ、原告主張の差異は、墓石用花立の使用状態において、水の交換や清掃等の際に花立筒を取り除くときに一時的に現れるだけであり、取引者、需要者が物品の選択に当たり、視覚をもつて認識する意匠の形状とはいえないから、これを両意匠の美感の差異として、その類否を判断するに当たり考慮に入れることは相当でない。

2 そこで、以上の認定事実に基づいて両意匠の類否について判断する。

両意匠は、意匠に係る物品を墓石用花立とするものであり、その性質、用途等に鑑み、全体高さに対する開口部及び台座部の幅員の比率によつてもたらされる全体形状の特徴、開口部や台座部の形状の特徴等が看者の最も注意を惹く部分であつて、両意匠の要部というべきであるから、両意匠の類否は、右意匠の形状の特徴を全体的に観察して判断すべきである。

ところで、前記認定のとおり、本願意匠と引用意匠とで、全体高さに対する開口部及び台座部の比率が大きく異なり、両意匠にかかる物品が俯角正面性が強く、斜め上方から見られることが多いものであるとしても、両意匠のプロポーシヨンの差異は明白であり、本願意匠が横に広く、ずんぐりして力強く安定した印象を与えるのに対し、引用意匠はスリムで柔らかく華奢な印象を与えるものであることは否定できない。そして、さらに、開口部の形状について、本願意匠が直線的に拡開していき、フランジ部が大きく折り返しているのに対し、引用意匠は緩やかに拡開する湾曲したラツパ状となつており、フランジ部の折り返しは小さいもので、両意匠の開口部の形状の差異は一見して明らかであり、前記の美感の差異を一層顕著にしており、俯角正面性の点を考慮に入れても、被告の主張するように開口部付近の限られた部分についての小さい差異ということをえず、両意匠の与える美感はかなり異なつたものとなつている。この点について、被告は、開口部の形状は両意匠ともよく知られた一般的な態様のものであつて特異性が認められない旨主張するが、墓石用花立における花立開口部は物品の性質上看者の注意を惹く部分であり、両意匠の開口部の形状が全体形状の特徴と相まつて両意匠の美感を強く印象付けているものであるから、被告主張の理由によつて両意匠の与える美感の差異を否定することはできない。

なお、本願意匠では墓石用花立の墓石台への定着手段として台座底部に下方に略凸状の埋設部を延設しているものであるのに対し、引用意匠でも定着手段として台座底部に下方に延設した埋設部が設けられているはずであるが、引用例からはその形状は明らかとはならない。墓石用花立の取引者である墓石業者は、物品選択に当たり、この定着手段がどのように講じられているかについても関心を持つと考えられるので、意匠的にも看者の注意を惹く部位であつて、両意匠の類否を判断するについてはその形状の差異をも斟酌する必要があり、その点において引用意匠が類否判断の資料たり得るか問題なしとしないが、埋設部の形状に格別の差異が認められないとしても、前記認定の全体形状の特徴及び開口部の形状の特徴の差異によつて両意匠がその美感を異にすることが明らかである以上引用意匠をもつて本願意匠に類似する意匠ということはできない。

以上によれば、本願意匠は引用意匠とは異なつた美感のものであり、両者は非類似のものというべきである。

3 以上のとおりであつて、審決は、本願意匠は引用意匠に類似する意匠であると誤つて判断したものであるから、違法であつて、取消しを免れない。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編注1〕本件の特許庁における手続の経緯及び審決の理由の要点は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五七年四月一二日、意匠にかかる物品を「墓石用花立」とする別紙第一のとおりの意匠(以下「本願意匠」という。)について意匠登録出願(昭和五七年意匠登録願第一五三二四号)をしたところ、昭和六〇年六月一七日拒絶査定を受けたので、同年八月二四日これを不服として審判請求をし、同年審判第一七〇九二号事件として審理された結果、平成二年一一月一日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は、平成三年一月一九日原告に送達された。

二 審決の理由の要点

1 本願意匠は、意匠にかかる物品を「墓石用花立」とし、意匠に係る形態を図面によつて現したもので、その意匠の内容は、別紙第一に示すとおりである。

2 これに対して、当審が類似するとして拒絶の理由に引用した意匠(以下「引用意匠」という。)は、昭和五五年二月五日に発行された業界新聞「日本石材工業新聞」第八八二号一三頁に所載された「花立の川本商店の墓装用品各種」の広告欄(以下「引用例」という。)のうち上から二段目の写真中、最右端に示される花立であり、同頁記載の全体から、意匠に係る形態を写真版によつて現したもので、その意匠の内容は、別紙第二に示すとおりである。

3 そこで、本願意匠と引用意匠について比較検討すると、両意匠の形態について、全体が、口縁に鍔を有する有底のやや上広がりの円筒の底部に略伏皿状の台座を形成した点が一致しており、その具体的な態様についても、鍔がかなり横に張り出した断面弧状のものであり、台座がやや深皿様の伏皿状であつてやや分厚いもので円筒の際より外方に張り出した態様に形成された点が共通しているものである。

これに対して、請求人代理人は、両者間には主として、<1>本願意匠における花立筒の開口形状は直線的なテーパ状であり、しかも、フランジ部での折り返しは極めて大きいのに対して、引用意匠の花立筒の開口形状は、緩やかに拡開する湾曲したラツパ状であり、しかも、フランジ部の折り返しは小さく、両者は美的印象が異なり、また、<2>本願意匠は、その花立筒全体が低く、台座が大きいために非常に安定して見えるのに対して、引用意匠は、その花立筒が縦長で、台座も小さいから不安定な印象があり、別異の美感を感受することは明白であり、両者の非類似性は明白である旨主張する。

しかし、<1>の点については、本願意匠が口縁付近まで、周壁を直線状に拡開しているのに対して、引用意匠は、口縁の少し手前より周壁を徐々に広げて拡開しているということはそれほど明らかではなく、この種の物品の意匠の分野にあつては、両者の態様のものとも、一般的な態様のものであつて特異性が認められず、また、この種の物品の使用態様を勘案すれば、斜め上方から眺めることが多くいわゆる俯角正面性の強いものであつて、鍔の下方の部位にあたる拡開についての態様の差異は、それほど際立つものではなく、そして、フランジ部の折り返しの点についても同様であつて、別紙図面に示されるとおり、開口部付近のごく限られた部位における小さな差異でもあることから、その差異が両者の類否判断に与える影響も微弱なものというほかなく、微差に止まり、<2>の点についても、意匠全体に占める台座の大きさの差異であつて、プロポーシヨンの差異でもあるが、両者は、意匠全体としてみれば鍔がかなり横に張り出した断面弧状のものであり、台座がやや深皿様の伏皿状であつてやや分厚いもので円筒の際より外方に張り出した態様に形成された点では共通しており、その共通点における僅かの差異であつて、意匠全体としてみればその創作の要旨は酷似するものであり、前述のとおりその使用態様を勘案すれば、その差異が両者の類否判断に与える影響もやはり微弱なものというほかないものである。

その他、請求人代理人は、本願意匠は、花立体、支持筒体、基台の三個の部品から成り立つているのに対して、引用意匠は、花立体、基台の二個の部品から成り立つており、本願意匠は、花立体が支持筒体から抜き差しできるものであり、両者は全く異なつた使い勝手のものであり、両者の相違は明瞭である旨主張しているが、これは、内部構造にかかわるものであり、機能的にはともかくも、外観的には全くといつてよいほど現れておらず、両意匠の類否判断の要素として斟酌することができないものというほかない。

さらに、請求人代理人は、この種の物品の分野における主たる需要者は墓石業者であり、墓前用花立を購入するに当たつては、通常、当該墓前用花立の台座の墓石台に対する定着手段に関心が寄せられるものであり、定着手段の形状が両意匠の類否判断を左右する重要な要素となる旨主張するが、この点については、水の交換等の使い勝手に差を生じさせることから看者の注意を惹くことがあるとしても、墓前用花立の主たる使用目的は墓前にある程度の時間を継続して花を供えることにあり、供花、水の交換はその準備に過ぎないから、看者の注意を最も惹くのは、墓前用花立を斜め上方から眺めた場合の態様であるといわざるを得ず、請求人代理人の主張は採用し難く、結局、意匠全体の類否判断の要素として、その差異をいずれも高く評価することはできないものである。

してみると、前記の差異があいまつた効果を考慮したとしても、前記の一致するとした基本的構成態様及び共通するとした具体的な態様は、両意匠の形態に関する主要部を構成するものであり、かつ、全体の基調をなす特徴といわざるを得ないものであるから、たとえ、その構成態様にさほどの特徴が認められないものであつたとしても、看者の注意を強く惹くところであつて、類否判断を左右する支配的要素と認めざるを得ない。

したがつて、両意匠の形態について、類否判断を左右する支配的要素による“まとまり”が共通し、これから生ずる美感をも共通することとなるから、両意匠は類似する意匠であるといわざるを得ない。

以上のとおりであつて、本願意匠は、引用意匠に類似する意匠であるから、意匠法第三条第一項第三号に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができない。

〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。

別紙第一

<省略>

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(以下省略)

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